チープテスターの誤差と確度とは

チープ テスターで遊んでみよう その2

本シリーズでは、激安テスターの利用方法を紹介します。今回は電池の電圧測定です。激安テスターの正確さについてもしらべてみます。

DT-830Bを使用した電池の測定

DT-830Bは、小型でコンパクトなデジタルマルチメーターです。

①機能/レンジ切り替えスイッチ
②LCDディスプレイ
③ー入力端子
④+入力端子:直交流電圧・抵抗・直流電流
⑤+入力端子:10A直流電流
⑥トランジスタ計測端子

DT-830Bは、小型で安価なデジタルマルチメーターです。電圧、電流、抵抗、ダイオード、トランジスタの測定ができます。マニュアルレンジで全19レンジあります。
価格が安く、初心者や学生にも手頃で、電子工作や修理などに幅広く使えます。一方、精度や安全性が高いとは言えません。
このテスターの価格は、送料込みで約790円から2000円程度と、ショップによって幅があります(2023年6月1日現在)。

乾電池での計測を簡単にするには

今回、単3形アルカリ乾電池の電圧を計測します。
乾電池の電圧は、乾電池の+に赤いテスト棒、ーに黒いテスト棒を接触させて計測します。
しかし乾電池は丸く転がりやすく、つるつるしているのでテスト棒の先のテストピンを電池にうまく押し当てるのが意外と難しいものです。思わずテストピンを指先で触れた状態で電池にピンを押し付けたくなりますが、これはいけません。テスターで計測する際、テスト棒の先に触れてはいけない理由は、人間の体も電気を通すからです。テスト棒の先に触れると、人間の体が測定回路に並列に接続されてしまい、測定値に誤差が生じます。特に大きな抵抗値を測るときには、人間の体の抵抗値が無視できなくなります。また、高電圧を測るときには、感電の危険もあります。ですから、テスターで計測するときには、テスト棒のつばよりテストピン側を持たないように注意してください。つばがないテスト棒の場合は、テストピンから離れた位置を持つようにします。単3乾電池で感電することはありませんが、どのようなものを計測する際も習慣にしておくのが賢明といえます。

今回の計測では、下のような電池ホルダを使用して計測しました。

単3形乾電池を測ってみよう

DT-830Bで電圧を測定する方法は以下の通りです。

  • 赤色のテスト棒(プローブ)をテスターの「VΩmA」端子に、黒色のプローブを「COM」端子に差し込みます。
  • テスターのモードを直流 (DC)電圧に設定します。DT-830Bでは、回転スイッチを「20V」の位置に合わせます。
  • 乾電池の+極に赤色のプローブを、-極に黒色のプローブを当てます。
  • 「1.61」と表示されました。1.5Vの乾電池で未使用なので、少し多めの電圧が表示されるのは妥当といえます。

上記は最大20Vまで計測できるレンジで計測しました。一般的な電池の電圧測定ならこの結果だけで判断できます。しかしここでは、最大2000mV(2.000V)のレンジで計測してみます。2000mVということは最大2Vまで計測できるということなので、約1.6Vの電池は当然、計測範囲に収まっています。

1605mV(1.605V)と表示されました。

正しい電池の残量測定方法とは

少し話がそれますが、電池の残量測定を正確に行うためには、「負荷測定」を行う必要があります。
電池の負荷測定を行うと、電池の内部抵抗による電圧降下を考慮した残量がわかります。電池の内部抵抗は、使用状況や温度、経年劣化によって変化するため、無負荷時の電圧だけでは正確な残量を測定できないのです。
負荷測定を行う方法としては、「電池チェッカー」という専用の器具を使うか、テスターと抵抗を使って計測するかの2通りがあります。
電池チェッカーは、電池内部の負荷を考慮して電圧を測定することで残量を測定する器具です。電池チェッカーには、電池不要タイプと電池使用タイプの2種類がありますが、正確な残量を知りたい場合は電池使用タイプがおすすめです。
テスターで計測する場合は、テスターと同じように電池と抵抗を直列に接続して測定します。本稿では詳しい手順を省略します。

誤差とは

今回は1,000円未満で購入できる、格安のテスターで計測しています。では、DT-830Bで測定するとどれくらいの誤差が生じるのでしょうか?
まず、DT-830Bの仕様を調べてみましょう。付属の説明書には、直流電圧の項に次の記述があります。

同梱されている説明書から

RANGEはレンジ(測定範囲)、RESOLUTIONは解像度、ACCURACYは確度(正確さ)をあらわします。
ここで、確度で記載されている、「±1.2% of rdg ±2D」とは何でしょうか?

確度の読み取り方とは

測定値に対する誤差の範囲をデジタルテスターでは「確度」といいます。確度仕様は、測定結果の値に比例する比例誤差と測定レンジ内で一定の固定誤差(レンジ誤差)との和で表されます。
rdg とは、読み値 (Reading)の略で、現在の値に対する誤差の割合(比例誤差)を示します。例えば、±1.2%rdg という確度仕様は、測定値の±1.2%以内の誤差があることを意味します。
一方、Dは表示結果の「最終桁に、その数値分の固定誤差が含まれる」可能性があることを示しています。

説明書に記載されている「%rdg + D」 の読み取り方は、具体的には以下のようになります。
まず、上記で述べた計測データを整理します。

確度仕様:±1.2% of rdg ± 2D(説明書)
測定レンジ:2000mV
測定値:1605mV

rdg比例誤差:測定値が1605mVですから±1.2%rdgが仕様の場合、誤差は、
 1605[mV] × ±1.2[%] × 10^-2 ≒ ±19.26[mV]
D固定誤差:分解能が1mVのため
 2D = ±2mV
トータル誤差:±19mV±2mV = ±21.26mV
トータル誤差から、1605mVが測定結果の場合、確度の下限値、上限値は1583.74~1626.26mVになります。

20Vレンジと2000mVレンジの確度の違いとは

20Vレンジでの計測も行っているので、レンジの違いでどの程度誤差の範囲が異なるのかを確かめてみましょう。

確度仕様:±1.2% of rdg ± 2D(説明書)
測定レンジ:20V
測定値:1.61V
比例誤差は、測定値の1.2%です。
固定誤差は、測定レンジの2D(最少桁の2カウント)です。
測定レンジが20Vで、分解能が0.01Vなら、最少桁は0.01Vです。したがって、固定誤差は0.01V×2=0.02Vです。
比例誤差と固定誤差を加算して、トータル誤差を求めます。
トータル誤差=1.61V×0.012+0.02V=0.03932V
トータル誤差から、確度の下限値と上限値を求めます。
 確度の下限値=測定値-トータル誤差
=1.61V-0.03932V
=1.57068V≒1.571V
 確度の上限値=測定値+トータル誤差
=1.61V+0.03932V
=1.64932V≒1.649V

レンジの違いによる確度の比較

確度は誤差が生じる幅ともいえます。1.5V程度の電圧を測定する際は、2000mVで計測するほうが、20Vレンジよりも確度の幅がぐっと狭くなり、誤差が少なるなることがわかります。

レンジ2000mV20mV
測定値1.6051.61
確度±21.26mV±39.32mV
確度の下限値1583.741.571
確度の上限値1626.261.649

DT-830Bのとんでもない仕様表示とは

最後になりますが、DT-830Bについてあきれてものも言えなくなる仕様表示について紹介します。
なんと、パッケージの外箱に記載されている仕様と、同梱されている説明書に記載されている仕様が全く違うのです。

以下が説明書(再掲)です。

下が外箱に印刷されている仕様です。

例えばですが、直流電圧(DC VOLTAGE)について説明書には以下の記述があります。
 ±1.2% of rdg ± 2D
外箱は次の記述です。
 ±0.5% rdg ± 2 digits

Readingの値が全く別物ですが、どちらが正しいのでしょうか?
本稿では確度の悪い(誤差の大きい:同梱の説明書記載の仕様)ほうを使用して記事を執筆しました。

なお、DT-830Bは様々な仕様の製品が販売されているようです。少しずつマイナーチェンジしているようなのです。そのため、必ずしも箱と説明書に記載された仕様が異なる製品を購入してしまうとは限りません。

さいごに

激安テスターによる電池の電圧測定を紹介しました。テスターの仕様から誤差の範囲を計算する方法にも触れました。DT-830Bは外箱と説明書で仕様の記載が異なるという、いかにも中華製品でありそうなことが起きていました。
皆さんも、感電や事故には十分気を付けてテスターを楽しんでください。