ITストラテジスト 午後Ⅱ 論文

22年 令和4年 午後Ⅱ 問1

ITを活用した顧客満足度を向上させる新商品や新サービスの企画について

問題

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IPAの講評

問 1 では,ターゲットとする顧客を定め,顧客満足度を向上させるために,新しい価値を提供する新商品や新サービスを企画している論述が多く見受けられ,論述しやすかったと思われる。一方,顧客との接点や関係性,顧客の体験などを十分に理解できておらず,IT を活用した新サービスなどの記述にとどまっている論述も散見された。IT ストラテジストは,顧客の体験や顧客の業務などの視点に立って,顧客にとって価値のあるサービスや商品を構想できる能力を身に付けてほしい。

論文構成

1.事業概要と顧客満足度向上施策の背景
1.1 事業概要
    オンライン英会話サービス業 A社
1.2 顧客満足度を向上させることが必要となった背景
    顧客ニーズ多様化
    顧客との接点、関係性希薄
    レッスン効果がわかりづらい
2.客満足度を向上させるための新サービス企画
2.1 新サービス企画
    AIによる学習支援システム
    顧客ニーズ、AIによる教材作成
2.2 顧客との接点や関係性
2.3 新たな価値, 扱うデータ
3.経営層への提案および評価
3.1 経営層への提案
    レッスンのシーン、教材などを具体的に説明
3.2 経営層の評価を受けて改善した こと
    教材の品質

論文例

1.事業概要と顧客満足度向上施策の背景
1.1 事業概要
A社はオンライン英会話サービスを提供する人材教育ビジネス会社である。A社のサービスでは、ネイティブ講師とマンツーマンで英会話レッスンが受けられる。また、レッスン前後には自己学習用の教材や前回までの授業に関する弱点補強などのフィードバックを提供している。A社の目標は、顧客の英語力を向上させるだけでなく、英語でコミュニケーションする楽しさや自信も感じられるようにすることである。

1.2 顧客満足度を向上させることが必要となった背景
近年、オンライン英会話サービスは人気が高まっており、競合他社も多く存在している。その中で、A社は顧客満足度を高めてリピート率や口コミ効果を増やすことが生き残る上で重要と考えた。しかし、現状では以下のような課題がある。 ①顧客ニーズが多様化しており、一律のレッスンプランではニーズに対応しきれない。 ②レッスン時間以外では顧客との接点が少なく、関係性が希薄になりがちである。 ③レッスン効果や進捗状況が可視化されておらず、顧客自身も自己評価しにくい。 ④教材やフィードバックが単調で飽きられやすい。

一方、A社の事業は以下のような特性を持っている。
①オンラインであるため時間や場所に制約されず利用しやすい。②これまでマンツーマンでの授業を展開しているため個別に対応できる柔軟性がある。③ネイティブ講師であるため本物の英語環境を提供できる。

以上から、A社は自社の事業特性を生かしつつ、教材と教師による生徒へのフィードバックを改善し、レッスンの質を向上できれば、顧客満足度も向上すると考えた。そこでITを活用して顧客満足度を向上させることのできる新サービスの企画を私が立案することとなった。
私は、A社経営企画室に所属する、ITストラテジストである。

2.客満足度を向上させるための新サービス企画
2.1 新サービス企画

私はITを活用した、生徒の英語学習スピードに合わせてカスタマイズされたレッスンプランや教材を提供する「パーソナライズド・イングリッシュ」サービスを企画した。このサービスでは、AIによる学習支援システムを実現し、以下の機能を有する。
①生徒は初回登録時に英語力テストと英語学習のニーズ分析を受ける。その結果に基づいて、AIが最適なレベルや目標、テーマ、講師などの割り当て案を提示する。 ②AIがオリジナルの教材を作成する。また、前回の授業をもとにしたアドバイス・弱点補強のための自習テーマなど(フィードバック)を作成し、生徒に提供する。これらは生徒の学習履歴や成績に応じて難易度やスケジュールなどがAIによって最適化される。 ③レッスン中にはAIが生徒の発音や文法などの間違いを検出し、リアルタイムでの指摘・修正案の提示やアドバイスをチャットで行う。④顧客の会話内容や表情から感情分析も行い、レッスンに対する満足度測定を実施する。 ⑤一定回数のレッスン終了後にはAIが英語の上達度や目標スキルに対する進捗状況を可視化し、グラフや数字で表示する。また、次回のレッスン予約も促す。

2.2 顧客との接点や関係性
このAI技術を活用したサービスでは、以下のように顧客との接点をもち、関係性を高める。
①初回登録時に英語力テストとニーズ分析を行うことで、生徒の現状と目標を把握し、目標にあったレッスン内容やアドバイスを通して信頼関係を築く。 ②レッスン前後にオリジナルの教材やフィードバックを提供することで、顧客の自己学習意欲を高める。 ③レッスン中にAIが生徒の間違いや会話内容などを分析することで、顧客の英語力向上へのフィードバックとモチベーションを与える。④レッスン後にAIがレッスン効果や進捗状況などを可視化することで、顧客が成功体験を積み重ね、満足感を高める。

2.3 新たな価値, 扱うデータ
本サービスでは以下のような新たな価値を提供する。 ①生徒は自分に合ったレベルや目標、テーマ、講師などを選択できるため、英語学習を自分のためだけの個人授業と感じると同時に、効果的な学習を行うことができる。 ②生徒はAIが生成したオリジナルの教材やフィードバックを受けることで、英語学習の質と量が向上する。 ③生徒はAIがレッスン中やレッスン後に学習結果の分析と可視化されることで、英語学習の進捗や成果を確認できるため、英語学習の効果に対する自己評価が容易になる。
その結果、生徒は常に講師やAIとの双方向コミュニケーションを形成していると感じることができ、学習意欲を増進させると同時に、学習サービスに対して高い満足度を維持することができる。
本サービスでは以下のようなデータを扱う。 ①生徒の英語力テストとニーズ分析の結果データ ②生徒のレッスン履歴や英語に対する目的ータ ③生徒の発音や文法などの間違いなどのデータ ④生徒の会話内容や感情データ ・顧客のレッスン効果や進捗状況データなど。

3.経営層への提案および評価
3.1 経営層への提案
私はITを活用したAIによる学習支援システムについて、以下のような業務改善や業務効率化を行えることを経営層に説明した。
AIによる学習支援システムは、講師のスキル底上げの効果と、教材作成や生徒へのフィードバックなどの作業負荷を軽減する効果が望めることを強調した。経営層の説明に当たっては、生徒モデルに対して実際の講義の中でAIがチャットを用いてどのように指摘やアドバイスを行うかを具体例で説明した。また、AIが作成した教材やフィードバックの資料、学習目標に対する実績の見える化などが学習意欲を高め、それがレッスンの質の向上と顧客満足度に結びつくことを丁寧に説明した。
3.2 経営層の評価を受けて改善した こと
AIが作成した教材の品質や著作権などの適切性について心配する意見が経営者より出た。そこで私は教材管理システムに工夫を加えることとした。
従来の教材管理システムでは、教材をチェックしたり、承認する機能を保有している。今回の新たな取り組みにおいては、AIが作成した教材やフィードバックなどの資料を教材管理システムに連携し、複数の講師がAIが作成済みの教材を点検し、必要に応じて修正したり、資料を加えたりすることとした。さらにAIが作成した教材を講師間で自由に共有することができるようにし、AIが作成した資料にどのような欠点があり修正を行ったのか、他の講師が参考にできるアイデアはどのようなものか、といった情報を閲覧できるようにした。
以上の改善を行った学習支援システムは経営者の承認を得て無事稼働し、顧客満足度の「満足」度が70%から85%に向上している。
以上